汚れた血
MAUVAIS SANG
愛は伝染する
1988年2月6日-1988年3月4日
★1986年ルイ・デリック賞
★1987年ベルリン映画祭アルフレッド・バウワー賞
少年は金庫を、少女は掟を破った。
◆夜が走り、愛が呻く
衝撃は予告なしでやってきた。
21世紀の足音が聞こえるパリ。ふとしたことから知り合った男と女と男の、永遠に結ばれないトライアングルを26歳の天才監督がとんでもなく素晴らしい映画に仕立て上げたのだ。かつて無かった斬新な画面作り、スピーディーでかつリリカルなストーリー展開の中、夜が走り、愛が呻く。レオス・カラックス監督のこの『汚れた血』が「興奮させ、しびれさせる最も感覚的な映画」と絶賛されたのは当然なのである。
カラックスは22歳の時に白黒映画ながら豊かな色彩感覚にあふれた長編処女作『ボーイ・ミーツ・ガール』でデビュー。『ディーバ』のジャン=ジャック・ベネックスや『サブウェイ』のリュック・ベンソンなどに続いて「ネオ・ヌーヴェルヴァーグの真打ち登場」とささやかれて人物だが、2作目の『汚れた血』で、その評価は決定的なものとなった。新感覚のフィルム・ノワールの形態を取りながら、フランス映画伝統の
“男女の愛”からも目をそらさず大団円に向けていく姿勢は、同じ“フィルム・チャイルド”でも、スピルバーグ率いるアンブリン映画人などとはあまりにも違っている。ゴダールの『勝手にしやがれ』で「虚無よりも傷心が好き」なジャン=ポール・ベルモンドが鮮烈な印象を与えたように、『汚れた血』のカラックスの分身ドニ・ラヴァンも「倦怠はもはや俺の愛するところではない」とばかりに、必然的なラストに走っていくのだ。それを見つめるカメラの、まるで生き物のような自由自在ぶり! デヴィッド・ボウイの「モダン・ラヴ」丸々一曲分の横移動長回し撮影や、全編漆黒に塗られた背景に鮮やかに浮かぶ赤い色、アウト・フォーカスによる遠近感の見事さ、と見どころに事欠かない。
主人公アレックスを演じるのはカラックスと同じ26歳のドニ・ラヴァン。『ボーイ・ミーツ・ガール』で自室の壁に“自分史地図”を落書きした少年が、よりセンシティブで不可解な若者に成長し、彼以外には考えられないキャラクターでテーマに深みを与えている。アレックスの父の友人で、アレックスの才能を犯罪に利用しる初老の男マルクにミシェル・ピコリ。ベテランならではの抑えた演技が見事だ。そして、マルクの情婦でありアレックスの憧れの女に扮するのがジュリエット・ビノシュ。アンドレ・テシネ監督の『ランデヴー』でも2人の男に愛される宿命の女を演じていたジュリエットは23歳にして、カトリーヌ・ドヌーヴを始めフランスの映画人が「今、最も競演したい俳優」のトップに名を挙げる存在になった。彼女の少女のような喋り方、ボブ・カットの前髪を息で吹き上げるポーズ、そしてラストの疾走シーンは、きっと後々まで語り草になるだろう。
撮影のジャン=イヴ・エスコフィエは『ボーイ・ミーツ・ガール』の白黒撮影と今回のカラー撮影で、カラックス監督の夢世界をそれぞれのフィルムの持ち味を生かして見事に撮り上げた異才。ミッシェル・ヴァンドステインの徹底的に様式にこだわったセット・デザインも、『汚れた血』の高い評価に貢献している。
なおこの映画は、ルイ・デリュック賞、87年ベルリン映画祭アルフレッド・バウワー賞を受賞。フランスのアカデミー賞であるセザール賞でも2年連続のジュリエット・ビノシュを始め、ほとんどの部門にノミネートされている。
◆ものがり
あと数年で21世紀を迎えようというパリ。彗星が接近しているため、夜でもおそろしく暑い。そして人々は愛のないセックスによって感染する新しい病気「STBO」の蔓延におそれおののいていた。
天涯孤独となったアレックス(ドニ・ラヴァン)は、どこか別の場所で、新しい人生を送りたいと思っている。ガールフレンドのリーズ(ジュリー・デルビー)と過ごす、愛のひとときも彼には無意味で、ただここから抜け出せればよかった。
中年の男マルク(ミシェル・ピコリ)と美少女アンナ(ジュリエット・ビノシュ)に誘われアレックスは脱出のための金欲しさに、犯罪に手を貸す。マルクは亡き父の友人で、アンナはマルクの情婦。いつしか、アレックスはアンナを愛するようになるのだが・・・。
監督+脚本:レオス・カラックス
製作:アラン・ダアン/フィリップ・ディアズ
撮影:ジャン=イヴ・エスコフィエ
編集:ネリー・ケティエ
歌「モダン・ラヴ」:デヴィッド・ボウイ
キャスト:ドニ・ラヴァン/ジュリエット・ビノシュ/ミシェル・ピコリ/ハンス・メイヤー/ジュリー・デルピー/キャロル・ブルックス
1986年/フランス/カラー/35mm/ヴィスタ/125分
原語:フランス語
提供+宣伝:ユーロスペース
配給:ベストロン映画