バグダッド・カフェ
BAGDAD CAFE
好きなら好きと言って、素直に。
1989年3月4日-1989年6月30日
光と
アメリカ、ラスヴェガスとロサスアンセルスを結ぶ道すじにあるモバーヴェ砂漠のはずれ。すぐ脇のハイウェイを疾走していくトラック、風に飛ばされる黄色い砂にさえとり残された、寂しげなモーテル“バグダッド・カフェ”。ここをきりもりしているのは黒人女のブレンダだ。役に立たない夫、自分勝手な子どもたち、使用人、モーテルにいついた住民たちにまで彼女はいつも腹を立てている。そこへある日、ひとりの太ったドイツ女がやってきた。彼女の名はジャスミン。大きなトランクを提げ、スーツを着こみ、砂ぼこりの道をハイヒールで歩いてきたこの奇妙な客に、不快な表情を隠そうともしないブレンダには想像もつかなかった。ジャスミンが、さびれた“バグダッド・カフェ”を砂漠のオアシスに変貌させることになろうとは・・・。
風の
監督のパーシー・アドロン、女優のマリアンネ・ゼーゲブレヒトは、『シュガー・ベイビー』(84)で、日本初上陸。太った女と地下鉄運転士の愛の物語に続いて二人が組んだのが、砂漠に芽生えた友情の物語『バグダッド・カフェ』だ。ビールを置いていないためか、主人に愛想がないためか、滅多に客の来ないモーテル&カフェ。カメラはこの間の抜けた風景を捕らえて動かない。道路を走り過ぎていく人々が主人公の映画をロード・ムーヴィーというなら、これはさしずめローサイド。ムーヴィー。移動していく風景はよけいな干渉もしないけれど、ふと立ちどまってしまったこの道ばた(ローサイド)は暖かい。流れていく風景はいつでも目には新しいけど、見慣れた景色の上に広がる空は柔らかな色に変化して懐かしい。そしてそこに集まってくるのはちょっと疲れた淋しい人たちなのだ。
魔法(マジック)
ジャスミンを演じるのは『シュガー・ベイビー』のマリアン役でエルンスト・ルヴィッチ賞を受賞したマリアンネ・ゼーゲブレヒト。太った身体が愛らしい彼女は、演出など多方面に才能を発揮している。バグダッド・カフェの女主人ブレンダ役には、ギニア出身で英国育ちのCCH・パウンダー。アメリカに渡ったのち数々の舞台に立ち、映画ではこれが初の大役となった。
さらに映画を味わい深いものにしているのは、この二人をとりまく顔ぶれだ。モーテルの住人で、トラックの運転士相手の女刺青師デビーにクリスチーネ・カウフマン。カフェの敷地内にとめたキャンピング・カーで暮らす画家ルーディーにジャック・パランス。特に、ジャスミンにほのかな想いを寄せるパランス老の演技は心に残る。
監督のパーシー・アドロンは1935年、ニュンへん生まれ。役者、ラジオ講師、脚本家、ナレーター、映画評論家の経歴を持つ。冒頭、不安定な画面(アングル)で一気に観客をひきつける撮影はベルント・ハインル。音楽はボブ・テルソン。ゴスペルほか多方面の作曲、編曲家として活躍、70年代にはフィリップ・グラス・アンサンブルでキーボードを弾いていた。主題歌「コーリング・ユー」はジュヴェッタ・スティール。
「光線」「風」、そして彼女の歌う「コーリング・ユー」は、乾いた砂漠に微妙な表情を与える印象的なモチーフとなっている。
監督:パーシー・アドロン
脚本:パーシー&エレオノーレ・アドロン
製作:パーシー&エレオノーレ・アドロン
撮影:ベルント・ハインル
編集:ディートリッヒ・V・ヴァッツドルフ
音楽:ボブ・テルソン
美術:ベルント・A・カプラー/ビナデュット・スティール
主題歌「コーリング・ユー」:ジュヴェッタ・スティール
キャスト:マリアンネ・ゼーゲブレヒト/CCH・パウンダー/ジャック・パランス/クリスティーネ・カウフマン/モニカ・カローン/ダロン・フラッグ/ジョージ・アキラー
1987年/91分/西ドイツ/ヴィスタサイズ/カラー
原語:英語
字幕:細川直子
配給:KUZUIエンタープライズ