コックと泥棒、その妻と愛人
”THE COOK,THE CHIEF,HIS WIFE & HER LOVER”
欲望を召し上がれ。
1990年8月4日-1990年11月30日
フランスの高級料理店ル・オランデーズの“コック”(リシャール・ボーランジェ)が
自慢のディナーを三人の顧客に披露する。
傍若無人で残忍な“泥棒”(マイケル・ガンボン)、美しく彼の犠牲者の“その妻”(ヘレン・ミレン)。そしてエレガントな教養人である彼女の“愛人”(アラン・ハワード)。さまざまな材料を使って、彼らを料理する。そのスパイスは魅惑的な音楽と威圧的な色。この映画はまさに人間の肉体のタブーを味付けし、情愛と憎悪をこね上げた叙事詩である。さあ、グリーナウェイ流“欲望のディナー”を召し上がれ。
美食と暴力、世紀末的大敗
舞台はフランス料理店。その店のいちばんの顧客は泥棒のアルバートと、その美しい妻ジョージーナの一行。夫の傍若無人ぶりと残忍さを知りぬいている妻は、恐ろしさのあまり逃げだすこともできない日々を送っていた。
そんなある日、ジョージーナは常連客の学者、マイケルと恋に落ち、二人は、夫の目を盗み情事をつづける。コック長リチャードは、気を利かせアルバートにばれない常時の場所を提供していたが、束の間の幸せは続かなかった。
妻の不貞に気づいたアルバートは、嫉妬に狂い手下たちとマイケルの創作を始めるのだった。
色彩へのこだわりの美学
英国映画界の異端児ピーター・グリーナウェイ監督
グリーナウェイは、『ZOO』、『建築家の腹』等で美しい毒に満ちたブラックなユーモアセンスと映像美で自らのこだわりを体現させ、見るものをスリリングに楽しませると同時に畏怖させた。『コックと泥棒、その妻と愛人』では、さらに色彩にこだわって彼の美学も極みに達したと言える。
駐車場の濃いブルー、厨房の緑、レストランの赤、化粧室の白、といった具合にそのシーン毎に色彩が変化すると同時に登場人物の衣装も部屋を移るたびに舞台と調和させているところは見どころだ。
ネーデルランド・バロックへの傾倒
グリーナウェイの作品に『ZOO』以来、壮麗な美しさを与えているネーデルランド・バロック。レストラン、駐車場に飾られ、泥棒たちの衣装のモデルになっている絵画は、やはり、ネーデルランド・バロックの代表作家フランス・ハルスの名画「聖ゲオルギウス射手組合の士官たちの会食」である。人為的でありながら現代にも通用する華麗な装飾美術や衣装に繊細な心配りがされている。
今回初めて映画衣装を担当し、話題を読んでいるファッション界の奇才、ジャン ポール・ゴルチェ。そしてグリーナウェイの常連美術担当であるベン・ヴァン・オス。音楽はグリーナウェイの実験映画時代からのコンビのマイケル・ナイマン。彼はバロック音楽理論にも通じており、映像との相乗効果を高めている。
豪華キャストによる舞台劇のような濃密な演技
映画の終わりまで狂言回しのように脇にひきながら圧倒的な存在感のあるコックには、脚本家や歌手としても知られるフランスの名優リシャール・ボーランジェ。泥棒役には、アイルランド生まれの個性派俳優マイケル・ガンボン。妻役に、RST(ロイヤル・シェイクスピア・シアター)出身であり、『キャル』でカンヌ国際映画祭主演女優賞を獲得したヘレン・ミレン。RSTの主役スターである実力派アラン・ハワードが愛人役に扮している。ほか、泥棒の手下役に『ワールド・アパート』のティム・ロス、ミュージシャンのイアン・デュリーなどが脇を固めている。
監督+脚本:ピーター・グリーナウェイ
衣装:ジャン・ポール・ゴルチェ
撮影:サッシャ・ヴィエルニー
美術:ベン・ヴァン・オス
作曲+指揮:マイケル・ナイマン
製作:キース・カサンダー
キャスト:リシャール・ボーランジェ/マイケル・ガンボン/ヘレン・ミレン/アラン・ハワード/イアン・デューリー/ティム・ロス
1989年/カラー/イギリス・フランス合作/124分/シネマスコープ
原語:英語
字幕:齋藤敦子
配給:ヘラルド・エース/日本ヘラルド映画