CINEMA RISE

1992年10月3日-1992年10月30日

ストーリー
暗転━。暗闇の中、一対のレールの上を列車がはしる。
1945年9月。第二次世界大戦後のドイツ。ドイツ系アメリカ人のレオ・ケスラーは、父の祖国復興のために単身ドイツにやってきた。見習い車掌として乗り込んだ大鉄道網ツェントローパの車両から見る病んだドイツは、レオにとって未曾有の世界だった。
そんなある日レオは、ツェントロッパの社長マックス・ハルトマンの娘カタリナ（ケイト）に車中で出逢い、夕食に招待される。そこで会ったアメリカ軍情報部のハリス大佐はレオに諜報活動の依頼をにおわせ、マックスは若くて無垢なレオの人格に好感をいだく。そして、レオはケイトを聡明で誠実だと思い、彼女はレオへ好意を隠そうとはしなかった。
そしてレオは、“ハルトマン家の友人”と名のる男ジギーにふたりの乗車を頼まれる。その汽車には連合軍から任命されたフランクフルト市長夫妻も同乗していた。やがて車中で夫婦が狙撃される。犯人は8歳の少年。レオが乗せた少年はナチスのテロ組織“人狼（じんろう）”の刺客だったのだ。
ハリス大佐に監視されているマックスは一方で脅迫されてもいた。緊迫の中、マックスは自らをカミソリでさいなみ生命を立つ。バスルームになかれるあかい血。同じ夜、ケイトは昔“人狼”に属していたとレオに告白し、ふたりは結ばれた。
マックスの葬儀でレオは、初めて2等、3等の様子を見た。それは彼の1等車両の乗客とはかけはなれた戦争の傷あとを刻みつけた人々の姿だ。心痛むレオに神父がケイトは既に“人狼”であった時を悔いていると話す。レオはケイトと結婚した。
ケイトが拉致された。“人狼”の党首ジギーは、彼女の開放と引き換えにレオの乗るブレーメン特急の列車爆破を要求してきた。ノイヴェート橋の上で爆発物のスイッチを押せ、と。しかもこの選択の時に試験官が来て車掌正規採用の抜き打ち試験をするという。試験？、“人狼”？、ケイト？、客車？、時間？、ノイベート橋？「お飲み物は？」「ベッドメイクは？」「靴磨きは？」・・・　容赦なく“レオ”は時代の渦にのみ込まれていく。
再び、暗転━。やがて明るいひかりと共に夜明けはおとずれるが、幻影は変わらず暗闇の中に棲みつき、虜となるものを持ってくる。息づく幻影━　その名を『ヨーロッパ』という。

プロダクションノート
“貴方をヨーロッパへと連れていこう。ゆっくり1から10まで数えて。貴方は私の声を聴くうちに、ゆっくりと静かに深みへと沈んでいく。10。貴方はいま、ヨーロッパにいる。”━　マックス・フォン・シドーの催眠術にも似た導入部からはじまるこの『ヨーロッパ』は、数々の映画祭賞を受賞した『エレメント・オブ・クライム』（’84）の監督、ラース・フォン・トリアーの3年振りの最新作である。日本でもその特異な映像美の心酔者は多いが、待ち望まれた新作は、彼にとって、かつてない大作となった。
脚本は、トリアーと小説やラジオ・ドラマの台本、『エレメント・オブ・クライム』『エピデミック』（’87）といった他のトリアー作品を手掛けたニルス・ヴェアセルとの共同脚本。撮影は、カール・テオドール・ドライヤー監督の『軌跡』（’55）『ゲアトルード』（’64）はじめ、『エピデミック』でもトリアーと組んだヘニング・ベンツセン。エンディングのニナ・ハーゲン、フィリップ・ユッテンロヘールのアリアも秀逸である。
出演は、レオ・ケスラーに『グレート・ブルー』（’88）のジャン=マルク・バール、ミステリアスな女性ケイトを『ローザ・ルクセンブルグ』（’86）『ボイジャー』（’91）のバルバラ・ズコーヴァ、ほかエディ・コンスタンティーヌ、ウド・キアーとフランス、ドイツのおなじみの超ベテランも顔を揃えた。
トリアーが、『エレメント・オブ・クライム』『エプデミック』に継ぐ三部作の最終パートだとコメントいているこの『ヨーロッパ』は、すでにデンマークをはじめ、アメリカ、イタリア、フランズで公開され、大ヒットを記録している。

製作：ピーター・オルベク・イェンセン／ボー・クリステンセン
監督＋脚本：ラース・フォン・トリアー
撮影：へヘング・ベンツセン／ジャン・ポール・ミウリッシ／エドヴァルド・クロジンスキー（白黒）
編集：ヘアヴェ・スナイズ
歌：ニナ・ハーゲン／フィリップ・ユッテンロヘール

キャスト：ジャン・マルク・バール／バルバラ・ズコーヴァ／エディー・コンスタンティーヌ／ウド・キアー／（ナレーション：フォン・シドー）

1991年／デンマーク・フランス・スウェーデン合作／パナビジョン／パートカラー／114分／シネマスコープ
字幕：池田香代子


配給：ヒルヴィラ