ジョニー・スエード
JOHNNY SUEDE
イカしてる! イカレてる?
1993年3月27日-1993年4月23日
スエードは不思議だ 固くて柔らかい 丈夫だが地味だ
しわができず━ひび割れない
皮やビニールのようにケバくない
最初、目につかず━気づいたら目を放せず━
最初、見過ごした事が不思議に思える
ジョニー・スエード
スエード靴の手触りは━不器用な10代のファンタジー 今野雄二
マンハッタンのローアー・イーストサイドの小さなクラブでトイレの鏡に映ったウルトラ・リーゼント・ヘアの己が姿に見惚れたように、ジョニーがリック・ネルソンの「ティーンエイジ・アイドル」を口ずさんでいた。
バッチリ決まったヘアとネルソンそっくりの声が自慢の若者ジョニーだったが、ダサイ靴だけは彼の夢見る<ティーンエイジ・アイドル>のイメージから確実に彼を切り離していた。
ニューヨーク派の新鋭トム・ディチロ監督の処女作は、そのジョニーが街頭であたかも天からの贈りものの如く、一足の黒いスエードの靴を授かるのをきっかけに10代のファンタジー、即ち<ティーンエイジ・アイドル>に成ることを夢見る様子を瑞々しく綴ったものである。
R・ ネルソンよりもむしろ、ジェームズ・ディーンを彷彿とさせるルックスの新人スター、ブラッド・ピットの飾り気のない生々しい好演によって浮き彫りとなる主 人公のジョニー・スエードは、バンド仲間の黒人とペンキ塗りで日銭を稼ぎながら、スターになる日を夢見ている。母親がレコード会社に勤めているという若い 娘に気をとられたり、障害児の世話をしている気の強い女性に引きつけられたりした挙句・・・
地下鉄で目の前に立ったヤッピーたちへの反撥の捨てゼ リフを投げつけた直後に、安定した生活への憧れを歌にして平然としているジョニーであるから、相手の女性から同棲の決断を迫られると、○×の消去法に頼る ほど情けない。おまけに肝心のSEXも愛情表現もいたって不器用ときている。
ディチロはジム・ジャームッシュのあの『ストレンジャー・ザン・パラ ダイス』の撮影を担当したことでも有名だが、この作品ではジャームッシュそっくりのいでたちのロッカー役でニック・ケイブがゲスト出演し、主人公のジョ ニーの曲にアイディアばかりか腐ったチキンを与えて、下痢をさせてしまう━ケイブの役名はずばり、フリーク!
ディチロの<フリーク>趣味はこの 他、劇中すべて小人の西部劇の挿入ばかりでなくアンディ・ウォーホルの<ヴィニール>、ジョン・ウォーターの<ポリエステル>、そしてデイヴィッド・リン チの<ヴェルヴェッド>などに結びつく<スエード>のフェティシズムからも極上のカルト趣味を濃厚にただよわせるのである。
そしてディチロはジョ ニーが靴の片方を失い、リーゼントが崩れる様を通して、スェードが<モラトリアム>、即ち大人になるたくない病のシンボルであったこと、言いかえればジョ ニーが<普通の大人>に成長していくかも知れないという、なんともほろ苦い現実を観る者につきつけてくるのだ。
BRAD PITT ブラッド・ピット
1964 年、28歳。ミズーリ大学で演技とダンスを専攻。舞台、TVシリーズに出演。’91年、ウィリアム・ボードウインの降板で回ってきた「テルマ&ルイーズ」 のJD役を獲得。全米の女性を熱狂させ、一躍スターダムにおどりでる。アメリア・ヨーロッパではリーバイスのモデルとして活躍しており、プロデューサーが 出演してほしい俳優リストに必ず入れる程、今最も期待されているアクターである。ジョニー・スエード出演後は、キム・ベイシンガー共演の「クール・ワール ド」や、ロバート・レッドフォード、ジョナサン・デミらの作品に出演が決定している。Mr.リーバイスからハリウッドの看板スターへとブラッド・ピットの 活躍は止まることをしらない。
TOM DICILLO トム・ディチロ(監督)
NY大学大学院映画学校の演出家で映画を学び、同期のジム・ジャームッシュの卒業制作「パーマネント・バケーション」の撮影を担当。その後、幾つかのインディーズ作品を手掛け「ストレンジャー・ザン・パラダイス」で撮影監督を担当し、一躍世界中にその名を知られる。
監督+脚本:トム・ディチロ
製作:ヨーラム・マンデル/ルート・ヴァルドブルガー
製作総指揮:ルート・ヴァルドブルガー/スティーヴン・スター
美術:パトリシア・ウッドブリッジ
撮影:ジョー・デサルヴォ
編集:ジェラルディン・ペローニ
音楽:ジム・ファーマー
衣装:ジェシカ・ヘイストン
キャスト:ブラッド・ピット/アリソン・モイア/キャサリン・キーナー/カルヴィン・レヴェルズ/ティナ・ルイーズ/ニック・ケイブ
1991年/アメリカ・スイス合作/95分/カラー/ビスタ
原語:英語
字幕:戸田奈津子
配給協力:東京テアトル
配給:ボイジャーエンターテイメント